モバイル自由研究: 「SIMだけのりかえ」は現実的か
2023年03月22日
通信会社各社は「今使っているスマートフォンはそのままで乗り換えができる」という点を訴求しがちです。本当にそうでしょうか?
例えばahamoのキャンペーンは端末をahamoで購入した際には、キャンペーンの対象外となります。UQ mobileはSIM単体契約時にau PAY残高でのキャッシュバックがもらえます。端末を一緒に買った場合の値引きよりは小さい額になりますが、キャッシュバックのほうがうれしい場面もあるでしょう。LINEMOはそもそも端末の取扱いがなく、ソフトバンクのオンラインショップへの動線もないという具合です。
端末が使うネットワークに対応していれば、他キャリアで販売されたものでもそのまま使える
現在使われているLTEと5Gの規格は国内4キャリアで同じものです。なのになぜキャリアごとに使用可否が出てくるのかと言えば対応周波数の問題があります。キャリアごとに割り当てられている周波数が異なります。
LTEや5Gで使われている周波数はある程度の塊で「band」という数字に割り当てられています。テレビのチャンネルのようなものです。キャリアが吹いている周波数帯のbandに端末が対応していれば、そのキャリアの電波を掴むことができるというわけです。
iPhoneはそのまま使える
日本で使われているスマートフォンのおおよそ半数はiPhoneであるとされています。iPhoneはどこのキャリアで販売されたものでも製品としては同じものであり、日本国内のキャリアが吹いているbandはおおむね網羅されているため、SIMロックさえ解除されていればどのキャリアで購入したものであっても、どのSIMを刺しても問題なく使うことができます。キャリアが提供しているサービスもApp Storeで配布されているアプリを通しているので、買ったキャリアを意識せずに使うことができるでしょう。
Androidの場合
Androidの場合、端末によって対応しているbandが異なります。販売されたキャリアにのみ対応するようにbandが減らされていることが多いのですが、メーカーや製品によっては他キャリアが使用しているbandにも対応するようになりつつあります。OPPOやシャープは2020年頃から、Samsungは2022年後半から対応するようになっています。
au版のGalaxy S22(2022年4月発売)の対応band。KDDIが吹いていないbandは削除されています。
こちらはau版のGalaxy Z Flip4(2022年9月発売)。B19やn79といった、ドコモ以外では使うことのないbandにも対応しています。
キャリアごとに吹いているbandを見ていきましょう。
LTE
凡例・・・☆: 無いと困る ○: あると快適 △: なくてもよい 空欄: 吹いていない 転: 5Gに転用されている ※: 現状では運用されていないがそのうち使われるかもしれない
band | ドコモ | KDDI | SB | 楽天 |
---|---|---|---|---|
1 | ☆ | ☆ | ☆ | |
3 | ○ | 転 | ☆ | ☆ |
8 | ☆ | |||
11 | △ | △ | ||
18(26) | ☆ | ☆ | ||
19(26) | ☆ | |||
21 | △ | |||
28 | 転 | 転 | 転 | ※ |
41 | ○ | ○ | ||
42 | ○ | 転 | 転 |
B8、18、19、28はプラチナバンドとも呼ばれるローバンド帯で、高速通信への影響はありませんが無いと屋内で電波が入りにくくなります。B3、41、42などは高速通信向けです。ドコモのB3は東名阪bandとも呼ばれ地域限定ですが、混雑緩和のためあったほうが良いでしょう(世界的に見ても広く使われているため、北米向けの端末でもなければほとんど対応しています)。
B42は5Gへの転用が進んでいますが、TD-LTEで吹いている場所もまだ見受けられます。地域によってはあったほうがより快適に通信できます。
B26はB18とB19の周波数を内包する特殊なbandです。KDDI、ドコモともにMFBIという仕組みにより、B26に対応していればB18/19それぞれのbandを掴むことができるとされています。auで取り扱っている機種のいくつかは対応していますが、対応していない機種も多くあります。
5G
凡例・・・☆: 主力 ○: 吹いている ※: そのうち使うかもしれない
band | ドコモ | KDDI | SB | 楽天 |
---|---|---|---|---|
n1 | ※ | |||
n3 | ☆ | ○ | ※ | |
n28 | ○ | ☆ | ☆ | |
n77 | ○ | ☆ | ☆ | |
n78 | ☆ | ☆ | ||
n79 | ☆ |
ミリ波については吹いているエリアが限定的なため省略しています。
n28はローバンド帯になり、通信はLTEより遅い場面もある程ですが途切れない5Gを実現するには欠かせない周波数帯です。楽天を除く3社で周波数帯が統一されており、楽天も同じ周波数帯をLTE向けとして確保しようとしています。元はB28としてLTE向けに割り当てられていたのですが、800/900MHz帯で間に合っていたためほとんど運用されていなかったものを5Gに転用しています。
n77,78,79はSub-6と呼ばれる、高速通信ができる主力の周波数帯ですが、n78にはLTEのB42からの転用が含まれています。n79はドコモ以外では中国で運用されているのみで、対応している端末も少ないのですが、n78と違い衛星通信と干渉しないためドコモでは主力として整備されています。
実例
実際にau扱いのGalaxy A53(SCG15)にドコモ(ahamo契約)のSIMを刺してみます。
ドコモのSIMを問題なく認識し、5Gにも繋がっていることがわかります。ドコモの主力はn79ですが、n28やn78はドコモでもauでも使われており、SCG15も対応しています。
通話も問題なくできることがわかります。auは3Gまでは他2社と方式が異なっていたためSIMロックフリーでも相互に使うことはできなかったのですが、現在は通話もVoLTEで統一されています。
自宅ではドコモのB1の電波が弱く、キッチンの奥に入ってしまうと入らなくなります。通常このような場合はB19を掴みに行くのですが、SCG15はB19に対応していないためこのような状態になってしまうわけです。
Pixel 6はチャネルによらず同じものが販売されていました。プリインストールのアプリが存在するように見えるのは、セットアップ時に入っているSIMに応じて自動的にキャリアがおすすめするアプリをGoogle Playからインストールする仕組みになっているからです。この個体はソフトバンクで購入したものですが、B19を掴んでいます(B19は800MHz帯で、NetMonsterでは800と表示されます)。n79を掴まないので5Gが目的なら微妙ですが、そうでもなければドコモのSIMを入れても快適に使えるでしょう。
総括
iPhoneの方はSIMカードを差し替えるだけでの乗り換えが現実的なので、適宜その時の自分に一番合っている通信会社とプランを探しましょう。安く大量にデータを使いたい学生さんなら楽天モバイル、家族で使うと安くて店頭サポートも受けられるY!mobile、単身者でオンライン手続きに抵抗がないならahamoやLINEMOのバランスの良さも光ります。残債にだけは注意が必要ですが、多くの場合元の通信会社に残債を払い続けることで乗り換えが可能です。iPhone 6よりも前の機種を使っている場合VoLTEの対応がないためau回線を選べなくなりますが(ソフトバンクも2024年で使えなくなります)、まずその辺りの端末は買い替えを考える時期です。
Androidの場合は通信会社がそのままでの乗り換えは検討してもよさそうです。単身でドコモを使っていて通信容量が100GBに収まるなら、ahamoにすると基本的には使い勝手そのままで安くなります。ソフトバンクやauでもサブブランドのプランの範囲内に収まる使い方なら、そちらにするだけで端末はそのまま、かつ安くなります。今使っている通信会社のプランが合わない(ドコモを使っていて店頭サポートを維持したまま安くしたい、ソフトバンクを使っていて手頃なプランにしたいが25GBでは足りない、など)場合は通信会社から変えることになりますが、その場合基本的には端末も乗り換え先の通信会社で購入したほうが安心です(bandの対応状況の他にも、キャリアアグリゲーションの挙動などキャリアモデルのほうが最適化が進んでいる場合があります)。