光をもとめて
2023年06月03日
(写真: Denny Müller)
東京に移ることになったので、電気水ガスの次に大切なライフラインである固定回線を考えることになりました。実家は母親がテレビをよく見る関係でケーブルテレビを引いており、インターネットの環境もそちらにのっかっていました。
(出典: 福井ケーブルテレビ)
フレッツより安く、上りが凄まじく遅い(5Mbps)のが難点ですが下りは常に安定しており、悪くはない環境だったと思います。
新居の回線は当然光ファイバーで考えていたワケなのですが、まあケーブルでは気にしなくてもよい概念がゴロゴロ出てきます。フレッツ網、光配線、光コラボ、IPv6、IPv4 over IPv6、VNE…………。あれこれ調べ上げてなんとなく納得できる所までは行けたので、知見を共有してみます。
光ファイバー回線の事業者
大きく分けて家庭用の光回線はNTTが提供しているものとそれ以外があり、NTTが提供していないものは深くあれこれ考えずに契約して使えるような仕組みになっています。主要なものとしてNURO光、auひかり、電力系が挙げられます。NTT網だと途端に他の回線にはない概念が出てくるワケですね。
またSoftBank光はNTT網の光コラボモデルですが、IPv4 over IPv6まわりが独自規格になっていたりする関係で、NTTの機材にSoftBankから借りる機材を繋いで使う形になるため、体験としては独自網のものに近そうです。
戸建てであれば自由に回線を選べますが、集合住宅だとそうも言っていられないことが多いと思います。東京都内の多くの集合住宅ではフレッツ光かauひかりのどちらか、あるいは両方が整備されていますが、ここにも罠が潜んでいます。
光配線とVDSL
集合住宅向けの光回線には、高速なものと低速なものが混じっています。NTTとauのサイトから、住む予定の建物を検索してみましょう。
NTT東日本の場合「光クロス」「マンションギガラインタイプ」の提供エリアと表示されていれば高速タイプです。「ギガ」の語句のない「ハイスピードタイプ」は低速のものです。
auひかりは「タイプG」「タイプV」が低速タイプとなります。「ギガ」「ミニギガ」は高速タイプ。
これらの違いは光ファイバーを建物内のどこまで通しているかによります。こちらで「高速タイプ」としているものは、光ファイバーを各部屋にまで通す「光配線」と呼ばれる仕組み。「低速タイプ」としているものは光ファイバーを建物の共用部まで通し、そこから先は電話線を使って通信する「VDSL」とよばれる仕組みです。
VDSLは電話線を使うためノイズの影響を受けやすいこと、そもそも低速である(光ファイバーは最大10Gbps、VDSLは最大100Mbps)ことから、VDSLの物件は避けるべきとされています。
auひかりは速いという言説はよくみられますが、私が探した東京都内の集合住宅では「auひかりがVDSL、フレッツが光配線」という整備状況がよくみられました。そこに目を付けずに適当に回線を選ぶと痛い目に遭うワケですね。
電力系やNUROが引ける物件なら、そちらを引いておけばよいと思います。電力系は高品質で割安、NUROはマンションタイプが引かれているなら激安で、回線品質はやや不安定なようですが速い時はとことん速いようです。
フレッツでインターネットに繋がる仕組みと混雑とIPv6
フレッツ網でインターネットに出る仕組みは、現在においてもダイヤルアップの頃のものを継続しています。つまりNTTが整備するのは光回線までで、その回線の先でインターネットに出られるようにするのはISPの仕事です。
フレッツ網とISPの間を繋ぎ、ユーザーの認証をするための仕組みには、PPPoEが長きにわたって使われてきましたが、その性質上オーバーヘッドが大きく、NTTもPPPoEでの接続に必要な設備の増強は渋りがちといわれているためか、2020年に固定回線の需要が急増するより前から混雑が指摘されてきました。
別個の話にはなりますが、インターネット上で端末を識別し、データのやりとりをする規格としてはIPv4が長きにわたって使われてきました。しかし端末に割り当てるアドレスの枯渇が2000年代より指摘されており、そのため次世代の規格であるIPv6に、少しずつではありますが置き換えが進んでいます。
ここでIPv6とPPPoEの話が繋がってくる訳なのですが、現状のフレッツ網でIPv6を使ってインターネットに出る際は、PPPoEによる認証を行わずに、回線そのものとISPとの契約を紐付けし、VNEと呼ばれる事業者を通ることになります(IPoE)。このVNEは利用者が契約するISPとは別に存在します(ドコモやAsahiNetのように、VNEを兼ねているISPも存在します)。
PPPoEの混雑があるからなのか、そのVNEがIPv6を経由してIPv4でインターネットに出られるような仕組み(IPv4 over IPv6)を整備するようになりました。NTTとしてもVNEとの接続に使う設備の増強は積極的に行っているようで、利用者が増えても混雑はそれほど進んでいないようです。このVNEが提供しているインターネット接続サービスは、一般的にはv6プラスやtransixといった名称で呼ばれているものです。
MAP-EとDS-Lite
国内で使われているIPv4 over IPv6の仕組みには、MAP-EとDS-Liteがあります。前者はv6プラス(KDDI)やOCNバーチャルコネクト(ドコモ)、後者はtransix(インターネットマルチフィード)やクロスパス(アルテリア)が広く使われているようです。
どちらもひとつのIPv4アドレスをポートマッピングによって複数の利用者で共有する……という点は同じで、このいわば巨大なNATのような処理をどこで行うのかが異なります。
MAP-Eではこの処理を利用者側で行います。対してDS-LiteはVNE側で行います。この辺りはルーターがよしなにやってくれますが、こういった仕組み上外部に宅内のネットワークの一部を公開するのは困難であることは覚えておいたほうがよさそうです(ISPによっては、オプションでIPv4の固定IPを割り当ててくれることもあります)。またこういった特殊な処理を行う都合上、ルーターは各サービスに対応したものが必要になります。
光コラボ
フレッツ網の回線は、従前はNTTとのフレッツ回線の契約とISPとのインターネット接続契約を別個に結ぶ形になっていました。現在はNTTによる光回線の卸売ができるようになったため、ISPと契約をまとめることができるようになりました。これがいわゆる光コラボで、携帯電話とのセットでの割引があるドコモ光やSoftBank光が広く使われているようです。
価格設定は事業者によりますが、おおむねフレッツ光とISPを個別に契約するよりは安くなります(16戸以上の集合住宅では、選定するISPによってフレッツ光のほうが安くなることもあります)。ただしさまざまな要因によってISPを乗り換えたくなっても、光コラボの場合乗り換えの手続きはフレッツ契約の場合と比べて煩雑で、多くの場合いわゆる2年縛りがあるため注意が必要です。
結局どうするとよいのか
フレッツ光の場合
- 集合住宅の場合 光配線(光クロス/ギガラインタイプ) の物件を選ぶ
- 何か公開したいのでなければ IPv4 over IPv6のオプション(v6プラス、transixなど) を付ける
- ルーターはIPv4 over IPv6対応品を選ぶ
- 光コラボにするなら事業者選びは特に注意深く
といった辺りになってくると思います。IPv4 over IPv6の場合、ISPにかかわらずインターネット接続のために通る場所はVNEになるためか、ISPによるパフォーマンスの違いはほとんどなくなっているようです。興味深いことにアルテリアのバックボーンは細いと以前は言われていたのですが、クロスパスに関しては他のVNEと遜色のないパフォーマンスが出ているようですので、VNEがクロスパスだからと言ってそのISPを避けたほうがよいということもなさそうです(対応しているルーターが少なかったりはするのですが)。
結局筆者はどうしたのか
IIJmioひかりにしました。新居は集合住宅なのですが、諸事情によりファミリータイプとなるため配線方式の心配は要りませんでした。
- VNEはtransixで、transixを提供しているインターネットマルチフィードはIIJの関連会社
- transixオプション無料
- 工事費用はフレッツ光と同額
- しょっちゅうキャンペーンをやっている
- 縛りは最初の2年だけ
- 料金設定は平均的
- IIJmioということで格安SIMとのセット割がある
という感じで私の要件には合っていそうでした。他にはVNEが選べて格安の固定IPオプションがうれしいenひかりや、ワイモバイルとの組み合わせでオトク感のあるSoftBank光、といった案もありましたが、色々入用な中入金を待たなければいけないキャッシュバックよりも値引きのほうが嬉しいのです……。